+ファントム+
君が昼は宮殿の裏の森に、夜は森の湖にお忍びで遊びに行ってることを、誰も知らない。
僕が何も考えずに気まぐれで行くと、いつも君がいて、いつも同じことを言って笑う。
『ここは立ち入り禁止なのに、知っていて来るのね?』
『祈りの滝は本当に効果があるのかしら?』
昼と夜。
森と湖では科白は違うけれど、その場所では必ず同じことを言って僕を迎える。
それに対する僕の答えも、いつも同じ。
『作品のイメージが湧くのには、どんなものも関係ないね。例えそれが規則であろうと常識であろうと、そのしがらみは僕にとって無意味でしかないよ。……そう、女王陛下のご命令でも』
『僕に滝の伝説の答えを求めるの?僕にはなぜ君が滝の前に立っているかなんてわからないんだ。そんなことを聞かれても、君の望む答えを持ち合わせていないと思うけれど?』
いつも挑戦的な僕の言葉を、君は面白そうに聞いている。
それから、次に言う言葉もまた同じだ。
『困ったわ。堂々と禁止区域に入られてしまったら、女王の威厳が保てないもの』
『意地悪ね。じゃあ、私の望む答えって何なの?』
そして僕は、笑いを浮かべるだけで何も答えない。「女王」の君も、僕の不敬を咎めはしない。
君もそれ以上は何も言わずに、どちらかが帰るまで二人で並んでそこにいる。
もう何度これを繰り返しただろう。この僕が飽きもせずに、この繰り返しを楽しんでいるなんてね。
君は本当に女王陛下なの?
突拍子もないことをしでかすし、この僕ですら形容できない不思議な色彩を持っている君は。
本当に、女王なんてつまらない立場にいるべきじゃないね。
今度は君にどんな挑戦的な言葉を投げかけようか。
君の女王の立場について?
僕の芸術について?
でもやっぱり、いつもと同じパターンしかないんだろうね。
今度こそ、君の持つ色彩の名前を見つけてみせるよ。
そうだね、気が向いたから明日の昼にしようか。
僕の気が向いたから、君もきっと裏の森にいるはずだ。
金色の髪が太陽の光をまとって、更に輝く位置に立っているに違いない。
それとも夜にしようか。
祈りの滝の前に立つ君は、月光を浴びて金色の髪が薄いプラチナに見えるだろう。
昼と夜のイメージの差。それなのに人間的にはまったくギャップなんか無い。
大胆に見せてしまう太陽の下と、繊細に見せてしまう月の下。
どちらも君に似合っているように思えるよ。
僕にはどちらが似合ってるのか、似合ってないのか、君に決めてもらおうか。
……いや、いつものパターンを崩せないんだっけ。僕には崩す気もないね。
僕は、君の望む答えを知らないフリをする。君も、僕の望む、言葉の続きを答えてくれない。
お互い様だよ。
過去作品を読み返すのは拷問ものですが、5年以上も前のものになると、もはや感覚が麻痺してしまうようです。
痛さに悶えるより先に、「こんな言い回し、今なら絶対書けん」と妙に感心してしまいますね……。
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