囚われ人 (景時×望美)
統率が乱れたまま、けれども船団は一艘ずつ沖へと漕ぎ出していく。
源氏の白旗が遠ざかっていく。
それを確かめて、景時は大きく息を吐いた。悪くはない。自分ひとりの足止めでも十分みんな逃げられる。
「どこに行くんですか、景時さん。船はこっちですよ」
「―――――――」
砂を踏みしめる音。
背後からの呼びかけは愛しい少女の声。彼女は他の八葉と一緒に船に乗ったはずだ。
気の迷いであれ。空耳であれと願いながら景時は振り向いた。
「……君は不思議だね、望美ちゃん」
幻では、ない。
「不思議?」
「陰陽道をかじったせいか、人よりいろんな不思議を見てきたと思うよ。
いや、陰陽道なんか関係なく、恐いものもある。……でも今のオレは、誰よりも、どんなものよりも君が恐いよ」
「景時さん」
清浄、高潔、そして眩いばかりの信念の強さ。
それは闇の神に呑まれて手を汚し続ける身にはたまらなく遠い。
どうして彼女はここに来てしまったのだろう。
自分はここに至るような何を、彼女に見せてしまったのだろう。
誰にも何も知られないまま、誰よりも彼女を裏切ることなく終われたらと思ったのに。
「私、景時さんの嘘はわかるんです」
ここで死なせたりしないと少女はつぶやいた。
ここで死ななければ、自分はどこへ逃げられるというのだろうか。
少女と闇の狭間で景時は何かを諦めるように目を閉じた。
志渡浦にて。この時点の望美はまだ景時さんの苦悩のわけを知らないんでしたっけ。
そう思うと無理やり引き戻すのは可哀想な気がしたり。
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