終日(ひねもす) (高杉×ゆき)


 
「あれ、晋作さん旅行ですか?行きたいところでも?」

 先程から熱心に何かを読んでいると思ったら、ガイドブックだ。
 後ろから覗き込んでみると、見開きに立派な五重塔が写っている。
 
「ああ。行きたいというより、行かねばならないと思っていてな」
「えっと……瑠璃光寺?」
「萩の寺だ。毛利家の墓所がある。こちらの世界の、だが」

 自分が仕えた殿様自身ではないけれど、お参りせずにはいられない。
 計算づくで狂気を装うほど理性的で、でもその根底には、こうやって紛れもない国や故郷への熱さがあって。
 こちらの世界に来るのに、その葛藤は凄まじかったのだろうとゆきは思う。


「なんだ、ゆき。今日は大胆だな」

 思わず後ろから抱きつくと、大して驚きもせず笑われた。
 全て分かっていると言いたげに頭をぽんぽん撫でられる。

「お前とこうしていると、幸せだ。何が幸せかと考えることができる、そんな時間がある。この世界に来て良かった」

 高杉の穏やかな声音と温かい手と背中。
 いつまでもこうしていたいと望むのは、もうゆき一人の願いではない。








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