+拠る+




「妻!?」

 その言葉を聞いて、おねね様は大声を上げた。耳が痛い。
 
「落ち着いてください、おねね様。誰も今すぐ娶るとは言っていませんよ」
「あ、そうだね……でもびっくりしたよ。三成が妻だなんて言い出すから」
「おねね様の問いに答えたまでではありませんか」

 今日もいつものように清正や正則と言い合いになって、一人ずつおねね様に呼び出されて、彼女の口癖「いくつになったの、三成?」を言われたから、「そろそろ妻を娶ろうかという歳です」と答えてみただけだ。
 別に突拍子もないことを言ったわけではない。
 実際、

「清正も正則も、縁談が持ち上がっているようですね」

 そういう話を耳にしているのだから。
 二人の名前を聞いて、おねね様の顔がほころんだ。

「うん、そうなんだよ。でも三成のことは聞いてなかったから、うちの人が言い忘れたのかと思った」
「秀吉様の言い忘れではありませんよ。そういう話がないだけです」
「三成も元服を済ませたし、そろそろ考える頃かもしれないね」
「そう、ですね。でもまだしばらくはこのままでいようかと思っています」

 まだしばらくは、この人の側にいたい。
 そんな本音を言うわけにはいかないから、目の前で不思議がる人のために別の理由を探した。 
 
「その、私たちが一度にいなくなると、城が静かすぎて物足りないでしょう」

 我ながらめちゃくちゃな言い分だったから、おねね様は顎に手を当てて考え込んでしまった。
 子飼いの将が誰も居なくなってしまったらと想像しているのかもしれない。
 少しの間があって、顎から手が離れる。

「――あのね、三成」
「なんですか?」
「こういう時は、”みんないなくなったら寂しいでしょう”って言えばいいの。まったく素直じゃないね」
「……………………」

 どう答えたものかわからない。
 仕方なく黙ったままでいると、「でも」とおねね様が微笑んだ。

「素直じゃないけど、三成はいい子だねー」

 頭を撫ぜられそうになって、思わず身を引いてしまう。 

「……いくつになったとお思いですか」

 そっぽを向いてそう言ったが、構わず頭を撫ぜられる。まるで子供の頃のように。
 
「いくつになっても、三成はいい子だね」
「でも”生きにくい子”なんですよね」
「だから、ガンバってって言ってるの」 

 いくつになっても、の部分をおねね様は強調して言った。
 いくつになっても子飼いの将は、自分の子供みたいなものなのだろう。

「頑張ってるつもりですよ」

 童顔のためか、いつ見ても子供のような笑顔を見下ろした。
 今まで離れる機会は何度もあったけれど、結局はこの微笑みに留められてしまう。
 ささやかな幸せと同時に沸き起こる、鈍い痛みを得るために。





 三成のツンデレぶりと、ねねの肝っ玉母さんぶりに笑いながらプレイしてました。
 ねね外伝のムービーは病み付きになりますねw
 史実では三成は清正より年上だし、清正は晩婚でしたが、ここは縁談が持ち上がった「だけ」ということで見逃して下さい。


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