+待ち人+


"必ず迎えにいくから。それまで忘れないで居てくれるか?"


江東の地にも新しい年が来た。
ここは建業城の奥の間、窓際に佇んでいるのは一人の女。
まだあどけなさの残るその顔に陰鬱な色を浮かべ、深い、深い溜息を一つ。

「あの言葉を聞いてから、もう三度目の年明けか…」

虚ろな視線は遠く地平の先を見つめたまま、徐に髪をいじくる。
ことん、と小さな音を立てて床に髪飾りが落ちた。
それは赤く染められた瑪瑙に金の縁取りがされており、中央には青く光る宝石が一つ。
その髪飾りの艶やかな色使いは、女の脳裏に過去の記憶を色鮮やかに蘇らせる。


"ほら、これ。その…遠く離れていても繋がっていられるよう、その証"

そういって差し出されたあいつの手には髪飾り。

"時間(とき)が過ぎてもさ、これ見て思い出してくれよ"

らしくない、あいつの言動に私は少し笑っちゃったんだったっけ。

"今笑っただろ?ありがちな別れ方だと思ってるんだろう?"

そう言って優しく、髪飾りを付けてくれたその手の感触が、今でもはっきりと…。


「もうすぐ三年。だけど、私の時は止まったまま」

もう一度深く息を吐く、その時、

「必ず迎えにいくから」

それは、耳元で囁かれたようでもあり、どこか遠くからの想いが届いた様でもあり、
過去の記憶の中の言葉の様でもあり、



これから起こる未来の予知夢の様でもあり、
ただ、はっきりと女の耳に届いた、『あいつ』の声。

「……もう三年も待ったんだから…今年こそ何か良い事あるかもね」

春の訪れを告げるような暖かな風が、女の笑顔を優しく撫でた。



今は動けない  それが運命(さだめ)だけど
諦めはしない  もう目覚めたから
燃えるときめきは  時代を映し
色鮮やかに  燃え盛る炎
Crying  今は見えなくとも
Searching  道標は浮かぶ
(鮎川麻弥 『Z・刻を越えて』)




ひらしん様曰く「どこかの誰か×孫呉の女性の誰か」で、女性は尚香のイメージだそうです。
私は尚香のお相手に、凌統を持ってきたいですね(凌統好きv)
穏やかながら、とても切なくて素敵な小説です。新年早々、素晴らしいものをありがとうございました。